大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)220号 判決

原告

甲野太郎

右訴訟代理人

川端和治

外四名

被告

右代表者法務大臣

稲葉修

右指定代理人

山田厳

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告

「被告は原告に対し三〇万円及びこれに対する昭和四五年九月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行の宣言

二、被告

主文第一項と同旨の判決(被告敗訴の場合は担保を条件とする仮執行免脱の宣言)

第二  原告の請求の原因

一、原告の地位

原告は、昭和四四年一〇月二一日のいわゆる一〇・二一国際反戦デー闘争に参加し、同日兇器準備集合罪等の容疑で逮捕され、同月二四日勾留の裁判を受け、同年一一月一二日兇器準備集合、公務執行妨害の罪名で東京地方裁判所に身柄勾留のまま起訴され、いわゆる第一三グループとして刑事第三部に事件係属した刑事被告人である。

後記本件処分当時、原告は中野刑務所に拘置されていたが、昭和四六年三月五日保釈により同所を出所した。

二、本件処分

原告は、昭和四五年七月三〇日友人の中村清から雑誌「闘争と弁護」(一九七〇年七月号、闘争と弁護刊行会編集・発行。以下「本件雑誌」という。)の差入れを受け、同年八月一〇日ころ右雑誌の交付願い(いわゆる「舎下げ願い」)をしたが、中野刑務所長は、同月一五日ころ右雑誌の閲読を不許可とし、原告にその旨告知して右雑誌の交付を行わなかつた(以下、この中野刑務所長の本件雑誌の閲読を不許可とした処分を「本件処分」という。)。

三、本件処分の違法性〈以下略〉

第五  証拠関係〈略〉

理由

一請求の原因一及び二の事実は当事者間に争いがなく、右事実に〈証拠〉を総合すると、本件処分の経緯につき次の事実を認めることができる。

昭和四五年七月三〇日、中野刑務所に勾留されていた原告ほか六五名のいわゆる公安事件関係の被告人に対して本件雑誌一冊宛の差入れがあり、次いで翌七月三一日にも更に三五名の公安関係被告人に対して本件雑誌一冊宛の差入れがあつた。

中野刑務所においては、そのころ原告ら被差入人に対し、右雑誌の差入れがあつた旨を知らせたところ、同年八月一〇日ころ、原告から右難誌について最初の舎下願いが出されたため、その閲読の許否の審査のため同雑誰が領置係から教育課に回され、教育課長、教育部長、管理部長らにおいて協議を行つた結果、同雑誌には別表記載のように閲読を許可するのを相当としないか所が著しく多く、そのか所を抹消ないし切除するとすれば非常な手数がかかり、事務処理上不可能であつて、かつ、書籍としての体裁や内容を著しく損うおそれがあり、閲読不許可とすべきであるとの判断において一致したため、同月一五日ころ所長の決裁を経て本件処分を行つた。

なお、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第三号証の三によれば、中野刑務所においては、昭和四五年八月中、本件雑誌九八点について閲読不許可処分をしたことが認められる。

そこで、以下、本件処分が原告主張のように憲法の保障する基本的人権を侵害し、違法のものであるか否かについて判断する。

二未決勾留は、刑訴法に基づき逃走又は罪証隠滅の防止を目的として、被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、監獄内においては、多数の被拘禁者を収容して、これを集団として管理するに当たり、その秩序を維持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには、被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく、右の目的に照らし、必要な限度において、被拘禁者のその他の自由に対し、合理的制限を加えることもやむをえないところである(最高裁判所昭和四五年九月一六日大法廷判決参照)。

図書閲読の自由は、日本国憲法一九条により保障された思想の自由や同法二一条により保障された表現の自由などと密接な関連を有する基本的人権であり、また、図書は、身体行動の自由を拘束されている未決拘禁者にとつて貴重な情報源でもあること等に鑑みれば、未決拘禁者の図書閲読については、その自由を充分に尊重すべきであつて、ただ、当該図書の内容、当該未決拘禁者の性格、精神状態、当該監獄の人的、物的戒護能力その他諸般の具体的状況の下において、図書を閲読させることが拘禁目的を阻害し、監獄の秩序を害し、その正常な管理運営に支障をきたす相当の蓋然性が認められる場合にのみ、これを制限することができるものと解するのが相当である。

そして、具体的場合における図書閲読の制限の態様(一部抹消又は切除のうえ閲読させるか、あるいは図書自体の閲読を許さないものとするか等)については、監獄という特殊な集団拘禁施設において、所内の事情に通暁し、かつ、専門的技術的知識と経験を有する所長の判断にある程度の裁量の余地を認めざるを得ないところであり、その裁量権の行使が客観的にみて右の合理的必要性の範囲にとどまるものである限り、それによる自由の制限は憲法の許容するところであるといわなければならない。法三一条及び同条の委任に基づく規則八六条並びにこれらに関する取扱規程及び本件通達の趣旨とするところも右のとおりに解すべきであつて、これらの規定は、その法形式においても、また規定の内容においても、なんら日本国憲法の原告指摘の諸条項に違反するものではない。

三1  次の事実は当裁判所に顕著である。

昭和四二年一〇月八日のいわゆる第一次羽田事件以来、学生を中心とする集団公安事件の発生の増加には異常なものがあつた。

昭和四四年一月の東大事件の六百十余名、四月二八日の沖繩デー事件の二百数十名、一〇月二一日の国際反戦デー事件の四百八十数名、一一月一六日・一七日の首相訪米阻止事件の五百数十名、昭和四五年六月一四日の反安保集会事件の二百四十数名などの大量起訴事件が集中的に東京地方裁判所に係属し、起訴罪名も公務執行妨害、兇器準備集合、威力業務妨害、傷害、暴行等多岐にわたつた。

そして、これら集団事件の被告人らの多くは、いわゆる統一公判の要求を執拗にくり返し、公判廷においては暴言を吐いたり、裁判長の訴訟指揮に従わず審理を妨害して退廷を命ぜられ、あるいは法廷等の秩序維持に関する法律により拘束され、制裁を科せられる者が続出した。

2  〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  中野刑務所は、職業訓練を中心とする矯正処遇を行うモデル刑務所として発足し、「特定G級」と呼ばれる年令二五才未満の一過性の犯罪者(概ね初犯者)で、素質の良い、相当高い能力を持つた職業訓練適格者を集めて収容すると共に、「分類センター」としての機構を備え、刑が確定した直後の者を約二か月間収容して、個々の受刑者の資質鑑別の分類調査を行つていたもので、本来、未決の被告人を拘禁する拘置監としての職員の配置はなかつた。

ところが、前記のような学生を中心とする集団公安事件の激増により、昭和四四年五月ころから同刑務所においてもこの種事件の被告人らを収容せざるを得ない状態となつたが、そのために職員の増員があつたわけではなく、従前の職員数で右被告人らの収容に伴う保安、戒護に当たつていた。

本件処分当時の同刑務所における収容状況は、受刑者四百十数名(このうち、二百名近くの者は分類調査のために収容されていた者)、被告人二一五名であり、被告人はすべて公安事件関係者であつた。

(二)  同刑務所では、当時、右被告人らを四舎及び五舎(いずれも二階建ての舎房で、四舎の定員一八八名、五舎の定員一〇二名)の独居房に収容(四舎に約一六〇名、五舎に約六〇名)していたが、看守は、定員上四舎に四名(階上、階下に各二名)、五舎に三名(階上、階下に各一名と舎房全体に一名)を配置するのが手一杯の状態であつた。

(三)  ところで、右被告人らは、概して非常に反抗的で、刑務所職員の指示・命令にも素直に従わず、また連帯意識が非常に強く、規律違反行為の波及が顕著であり、限られた職員による規律違反行為の現認、制止、摘発は困難を極めた。

すなわち、何かのニュースが入るなどの些細なことがきつかけとなつて一人が大声で叫ぶと、次々と他の者がこれに呼応して大声を出しシュプレヒコールをあげ、あるいは房扉、房壁をたたき、床を踏み鳴らし、便器や洗面器をたたき鳴らすなどの違反行為に及び、舎房の中ががんがんする程の喧噪になつた。そして、一人一人は波状的に右のような違反行為をくり返すため、その制止等のために他の職員が応援にかけつけても、直接違反行為を現認できることはまれであり、所内の規律の維持が極めて困難な状況にあつた。

右のような舎房全体の静ひつを乱す規律違反は、昭和四五年六月ごろは毎晩くり返され、本件処分当時もしばしば発生した。

(四)  そして、受刑者は、被告人とは別の舎房に収容されていたが、右のように被告人らが騒いだりしたことはすぐ受刑者の間にも伝わり、そのことを口にする者も出て、教育効果上憂慮される事態になつていた。

3 以上の事実によれば、当時、中野刑務所においては、反抗的、暴力的で連帯意識が強く、戒護の極めて困難な集団公安事件関係の被告人を一時に多数収容し、これらの被告人には些細な刺激も規律違反のきつかけとなり、それはたちまち他の被告人にも波及拡大し、瞬時にして刑務所全体の平穏が乱されるという異常な状況にあつたことが認められ、このような状況の下で、右被告人らに対する刑務所内及び出廷時における戒護に万全を期し、集団的拘禁施設としての刑務所の秩序を保持するためには、これら被告人と常時その戒護に当たる刑務所職員との間の最低限度の信頼関係の維持は不可欠のものであつて、刑務所又はその職員に対する不信感や敵意をあおるおそれのある図書は、これを右のような多数の被告人(原告に続いて本件雑誌の差入れを受けた他の被告人らが次々と舎下げを願い出ることは当然予見できたところであり、現に、本件処分後二週間余りの間に更に九七冊について閲読不許可処分があつたことは既にみたとおりである。)に時をおなじくして閲読させるときは、多衆の共同による規律違反行為を誘発し、戒護を阻害し、刑務所の秩序維持に著しい支障をきたす相当の蓋然性があるものといわなければならない。

また、前記のように反抗的、暴力的でしかも連帯意識の強い傾向を持つ多数の者に、他の公安関係被告人の規律違反行為(同人らは、しばしばこれを「闘争」と意識することは本件口頭弁論の全趣旨により明らかである。)の具体例を掲載した図書を閲読させるときは、その方法をまねた規律違反を誘発する相当の蓋然性が予見されるものといわなければならない。

四そこで、次に、本件雑誌(前記甲第一号証、乙第四号証)の内容について右の点を検討する。

1  別表番号1、3ないし5、10、16、23、24、及び36番のか所について

これらのか所の記述は、監獄においては、「獄中闘争」に対して、「看守による個別的リンチ、あるいは所長による意図的懲罰というようなかたちで、必らず報復が加えられる」(1番)、「保護房が懲罰の先取りとして使用される。」(3番)、「何りよも裸の暴力が優先する。」(4番)とか、出廷時、「退廷命令とともに一斉に看守が被告人におそいかかり、暴行を加えつつ仮監に連行したのであるが、その際、看守が被告人に暴行されたとの不当な理由で……懲罪の言渡しが行なわれた。」(5番)とか、「これまで何回となく報告されている拘置所における懲罰に名を借りた暴行、虐待事案」(10番)、「時代後れの監獄法のもとにおいて、東京拘置所、中野刑務所などに勾留中の反戦・学生被告に対し、非人道的処遇が加えられている。……右拘置所等において被告人が看守に少々口答えしたとか、正当な要求をしたなどのことで直ちに懲罰をうけて、一〇日前後も入浴、運動、面会、読書、ラジオ等が禁止されて非人道的生活を強いられているのがザラであり」(16番)、「看守が出廷前、監獄又は仮監において……裁判所に異議をとなえたときには、閉廷後いかなる不利益を加えかねまじき勢威を示し」(23番、なお16番も「懲罰をうけることがある」といつて恫喝を加えたとの記述を含む。)、「拘置所の看守が勾留中の被告人に対し懲罰の名の下に加える嗜謔的な暴力の数々は、五月に東拘で起きた、手錠のうえに皮手錠付のまま二四時間放置した例をはじめ枚挙にいとまないほどの実例が報告されている。」(24番)、「退廷後、看守の暴行に抗議すると懲罰を一〇日以上もうける。」(36番)などというものであり、監獄における管理運営、特に懲罰が極めて恣意的(報復的)、暴力的、非人道的に行われているとの主張を、多分に扇動的な語調で記述したものであつて、かかる記述は、読む者をしていたずらに刑務所及びその職員に対する不信感を抱かしめ、あるいはこれに対する抗争意識をあおり立てるおそれがあるものというべきである。

2  別表番号2番のか所について

このか所は、静岡刑務所における金嬉老被告人に対する不正処遇問題をとりあげ、「一人の被告人が、カギのかかつていない部屋でステレオを聞きながら包丁を使つて料理を楽しんいるとき、いかに多くの被告人がいわれのない苦しみを味わされていることか。」、「所長や保安課長や看守の一存でかくも『優遇』が可能であるのならば、同じ人間がある在監者を『冷遇』したいと考えたとき(そして一般にはこの場合の方が多いのであろうが)、どのようなことが起るのだろうか」などというものであつて、刑務所の組織全体の不正、不信をことさらな表現を用いて印象づけようとするものであり、その内容の真実性及び論評の当否は別にして、その論述が在監者に向けて行われた場合、いたずらに刑務所及びその職員に対する不信感あるいは不平、不満の念を抱かしめるおそれのあるものである。

3  別表番号6、7番のか所について

このか所は、東京拘置所における公安関係被告人の出廷時における規律違反の具体的事例について、違反行為の概要、これに対する懲罰の種類及び同拘置所における一定期間の公安関係被告人の規律違反の主な事犯名、その件数等を記述したものであつて、前述のとおり、このような記事は、原告ら公安関係被告人に対しては、その方法をまねた規律違反行為を誘発するおそれがあると認められる。

4  別表番号8ないし35、37及び38番のか所について

これらのか所は、出廷時、戒護の看守が勾留中の被告人に対し、しばしばいわれなき暴行、陵虐を加えたという状況のどきつい表現による記述ないしこれに関連する記述であるが、かかる記述は、勾留中の被告人らに対し、いたずらに看守の戒護権行使に対する不信感あるいは看守に対する敵対意識をあおるおそれがあるものである。

五1  右に検討したところによれば、本件雑誌は、その掲載記事の内容上、さきに認定したように反抗的、暴力的で連帯意識が強く、戒護の極めて困難な原告ら拘禁中の公安関係被告人多数にこれを閲読させるときは、同人らと日常接触し、その戒護に当たつている刑務所職員に対し強い不信感や敵意を抱かしめ、あるいは右記事の模倣により、当時の同刑務所の戒護能力をもつてしては制止困難な規律違反行為を誘発し、ひいて多衆の共同による騒乱状態を現出して、同刑務所における拘禁秩序の破壊をもたらすに至る具体的なおそれがあると認められるか所が随所に存在するというべきであり、それらのか所は、右に検討したところで既に本件雑誌一二四ページ中の約四分の一のページにわたることが明らかである。

2  〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  中野刑務所においては、閲読許可不適当のか所を抹消したり切除したりする事務を担当する教育課図書係は、常時は職員が一名と図書夫(受刑者で作業として右の仕事をさせている者)一名、計二名で事務を処理していたが、事務量が急に多くなつた場合にも職員を増すことはできず、受刑者を二名なり三名なり臨時に増員して賄つていた。

(二)  昭和四五年六月ないし八月において、毎月中野刑務所が収容者のために受け入れた図書の数及びその検閲概況は、次表のとおりである。

六月

七月

八月

受入総数

二万九四二九点

二万四一三三点

二万六〇七四点

内訳{

被告人{

差入れ

一万八〇一六

一万二九三五

一万二八七八

購求

九八五一

九八二七

一万一四〇八

受刑者{

差入れ

四七三

四五一

五七九

購求

一〇八九

九二〇

一二〇九

舎下数{

被告人

二万七七一七

二万二七五七

二万四一八四

受刑者

一五五二

一三六一

一七八〇

切除又は抹消した数

八七三一

五一八三

七四七八

不許可にした数

一六〇

一四

一一〇

なお、右表において、八月中に不許可にした一一〇点中、九八点は本件雑誌「闘争と弁護七月号」である。

右表から明らかなとおり、同月中に切除又は抹消した数は、本件雑誌多数の不許可にかかわらず他の月に比べて決して少ない数ではない。

ちなみに、八月中の受入図書数を分類別にみると(かつこ内の数字は公安事件関係のもの)、月刊雑誌八三九(四六一)点、週刊雑誌八四七(七九九)点、通常紙一万一二〇八(一万〇五〇八)点、その他の新聞四〇八九(四〇八九)点、パンフレット六八九七(六八九七)点、単行本一九五〇(一四一五)点、写真二四四(一一七)点となつている。

(三)  加えて、本件雑誌は、紙質が良いため、該当か所の完全な抹消を行うためには、一度墨で塗つたうえ、更に二度、三度と塗らなければならない(そうしなければ、透かしたとき抹消か所の判読が可能である。)。

以上の事実によれば、右(三)のように煩雑な抹消の作業を前記のような多数のページにわたり、かつ、百冊近い図書について短期間にこれを行うことは、刑務所の管理運営上著しい支障を生じさせるもであることは容易に首肯でき、また、抹消に代え当該か所を切除するためにも同程度の作業を必要とし、かつ切除部分が多いために雑誌としての形態を損傷するにいたることも明らかである。更に、本件雑誌が、前認定のように刑務所又はその職員に対する不信感ないし抗争意識をあおる記事を多数掲載していることに鑑み、その抹消又は切除の作業を受刑者に行わせることは、教育上適切とはいいがたいものがあろう。したがつて、閲読許可不適当なか所の抹消又は切除の方法により本件雑誌を閲読させることは不可能であるとの同所長の判断は、それなりに合理性をもつものとして是認することができる。

3  一方、原告は、本件雑誌は、刑務所内の極めて劣悪な条件下にあつて自己の権利を守るため、あるいは自己の刑事裁判における防禦権を行使するために必要不可欠のものであつた旨主張する。

(一)  しかし、本件雑誌中には監獄内における違法、不当な処遇に対する救済等の途について触れた記事があるにしても、特にこれを詳しく解説したという程のものはなく、これを読まなければ在監被告人において自ら適正な権利の擁護ができないという性質のものとも認め難い。

(二)  更に、本件雑誌中、「一〇、一一月公判関係資料(二)」と題する一連の記事の内容は、いわゆる一〇、一一月闘争事件について、既に裁判所がグループ別審理の方針を示して事件の配点を行い、手続を進めようとしているにもかかわらず、なおも被告、弁護人側がこれを阻止しようとして審理を妨害し、その過程において突如弁護人らが辞任したこと等に関する文書類の掲載であることが明らかであつて、これらの記事が原告らの刑事裁判における実質的な防禦権の行使に直接役立つものであるとはとうてい認め難いものであるのみならず、証人間辺大午の証言及び原告本人尋問の結果によれば、それらの文書類のほとんどは、別にパンフレットとして原告らに差し入れられており、中野刑務所では、不適当か所を抹消していたにしろその閲読を許可しており、原告は既にこれを閲読してその内容を了知していたこと及び弁護人らは辞任後も被告人らと連絡を保つており、原告らが当時格別孤立無援の立場にあつたものではないことが認められる。

4  したがつて、本件雑誌の閲読を不許可とされたことにより原告の被る不利益なるものは、本件雑誌の前記閲読許可不適当か所を逐一抹消又は切除のうえ、あるいは抹消、切除を行うことなく全面的に、その閲読を許可した場合に生じるおそれのある前認定の刑務所の拘禁秩序の破壊又は正常な管理運営の阻害による不利益の程度に比較して、決して大きくはないものであることが明らかである。

六以上のとおり、本件処分は、刑務所の秩序の破壊及び正常な管理運営の阻害を防止するために許される自由の制限として、必要かつ合理的な限度を越えるものではないから、憲法に違反し又は裁量の範囲を逸脱する違法なものということはできない。

そうすると、その違法を前提とする原告の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(杉山克彦 石川善則 吉戒修一)

別表〈省略〉

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